それは将景様の護衛として、外出をした戻り道でのことだ。
屋敷へと戻るのかとおもいきや、突然、反対の通りへと向かい始めたのである。
慌てて追い掛けると、彼は橋を渡り、店々が並ぶ大通りへとやってきた。
何か不足した物でもあったのだろうか?
そうでなければ、このような場所へ立ち寄るなんて考えられない。
「あの、何かご入用の品でもありましたか?」
私が尋ねると、彼は一瞬目を丸くした。
「……。あぁ、少し必要な物があってな」
「申し訳ありません! すぐ買いに――えっ?」
下げかけた頭を、大きな手の平に止められる。
「構わん。お前が行ったのでは、意味が無いのでな」
「???」
私では意味の無い物?
どんな物を買おうというのか…。
彼の意図が分からず、首を傾げる。
そんな事をしている間にも彼は歩みを進めるのだが、大店には全く目もくれない。
次々と馴染みの店を通り過ぎ、やがて一つの小さな屋台の前で立ち止まった。
「すまないが、これを一つ」
店の親父にお代を渡すと何かを受け取ったと思うと、すぐ様こちらに向け差し出した。
「えっ…?」
「受け取りなさい」
「は、はぁ…」
理由もなく何かを貰う謂れもないのだが、言われるがままに差し出された物を受け取る。
購入する所を見ていたので、それが金平糖だという事は知っているのだが…。
「何故、このような物を?」
「お前の好物だろう。要らないのか?」
「いえ、そういう事ではなく…」
欲しい欲しくないの問題ではなく、何故このような物を貰うのかその理由が知りたいだけだ。
やっと私の真意に気が付いたのか、将景様は小さく、あぁと呟いた。
「先月お前から貰ったであろう? その返礼だ」
「あっ…」
心当たりを思い出すと、彼は小さく笑みを浮かる。
「要らなければ、捨てなさい。戻されても私が困るだけだからな」
「そのような事は断じて! 有り難く頂戴致します!」
貰った包みを抱きしめ、頭を深く下げる。
「ふっ、お前は変わらんな」
「えっ?」
優しげな声に頭を上げてみるが、既にいつもと変わらない表情になっていた。
「帰るぞ」
「はい!」
私は手にした包みを握りしめ、彼を追いかけた。