「はぁ…」

息を吸い込めば、澄んだ空気が体の内部を冷やし、大きな溜息となって外へと吐き出される。
見上げた空は雲ひとつない青空で、恨めしいくらいに清々しい。

「はぁ~ぁ…」

お屋敷の屋根の上へと座り込み、手の中にある紙を広げる。
かさりと音を立てたそれは、今朝方、立ち寄った神社の御神籤で、運試しにと引いたのだが――。

「信心深ければ…ね」

願望のところに書かれていた言葉。
“信心深ければ思いのままなり”
本当は木に結んでくれば良かったのだろう。
だが、この言葉が引っ掛かり、紙は未だ手の中。

「そう言われてもなぁ…」

一体、何を信じろというのか。神か? 仏か?
この世に存在しない者を崇めたって、救われるわけがない。
それは俺自身がよく知っている。

『やっぱり、ここだったのね!』

屋根の一番端の瓦に白い指が掛かり、声の主が顔を覗かせた。
俺の相棒、桂華だ。

「あんたってば、本当にここが好きね」

ぶつくさと文句を言いながらも、瓦の上へ登り切る。
そして、いつものように俺の隣に座る。それがここでの定位置だった。

「よく分かったな?」
「何年の付き合いだと思ってるの?」

幼い頃から何かあれば、この場所で空を眺めていた。
そして、そんな俺を探しに来るのは、いつしかあいつの役目になっていた。

「それ、御神籤?」

目聡くも手中の物を見つけると、僅かに身を乗り出してきた。

「…ほら」

素っ気ない仕草で紙を差し出すと、あいつは嬉しそうに受け取る。

「…結局、いつもと変わらずって事じゃない」

一頻り読み終え、あいつはそう呟いて、紙を戻した。

「変わらずって?」
「よく言ってるでしょう? 自分の信じた道を貫くんだって…」

はたと気づく。そうだった、信じるは己のみ。

「慎弥?」
「何でもねーよ!」

不思議そうに首を傾げるあいつに、くすりと笑い掛け、その頭を若干強めに撫でつける。

「ちょ…ちょっと! 慎弥!!」

仏頂面で俺の手を払うと、すぐ様、屋根を降り始めた。

「もう…早く降りて、手伝ってよね?」

屋敷の中は下人達が廊下を忙しなく往復している。

「信心深ければ…か…」

己が心の向くままに、俺はあいつの背中を追いかけた。